旅の思い出

半径5kmを切り取る旅 page10

広島市の安佐北区に可部という地域がある。

 

鋳物で栄えた町で、可部駅の近くの公園には200年も前に作られた鉄灯籠がある。

現在は安佐北区に吸収されてしまったが、大病院や区役所などもあり今も重要な土地だそうだ。

 

 

あまり縁のない土地だったが、古い街並みが良いという噂を聞き先日足を運んでみた。

冬も始まり少し寒かったが、和服にカメラ、スマホ、財布だけという身軽な格好で出かけた。

 

荷物は少ない方が好きだ。

身軽に歩き回って一枚でも多く写真を撮りたい。

知らない土地へ向かうワクワクを感じながら、横川からJRに乗り可部駅へと向かった。

 

 

仕事もプライベートも徒歩移動が多い僕はJRなど電車に乗る機会も少ない。

車窓から見える景色を楽しみたいと思い、立つ事にはなるが窓際にいる事を選んだ。

すると同じように景色を楽しみたい乗客がいて、同じように窓際にもたれて外を見ていた。

 

初老の男性で、楽しそうに外を眺めていた。

旅はこうでないとな、と思った。

 

 

可部駅に着いてJRを降りる。

平日なのもあって人が少ない。

時間もあるし地図も特に見ずにぶらぶらする。

 

可部は確かに古い家屋などもあり、趣のある土地だ。

近くに大きな河も山もあるので自然に溢れている。

いつも通り気になったものを写真に収めながらひたすら歩いた。

 

 

この日は曇り空で、あまり良い天気ではなかった。

少し暗くてしかも肌寒く人も少ない。

 

河の側は風も抜けて特に寒い。

しかしこの感覚こそまさに冬だな、と思いながら川縁を歩く。

 

クリスマスのように幸せな雰囲気も勿論嫌いではないが、この寂しい感じこそ冬だと僕は感じる。

冬は生き物達が眠り、空気が静かになる。

 

 

川岸から岩を伝って、河の真ん中辺りに立つ。

そうするとせせらぎや草が風に揺れる音だけが聞こえる。

とても静かでいい。

 

 

薄暗い中モノクロで写真を撮っていると、ファインダーの中に見える景色が墨絵のようだと思った。

墨絵を描くように情景を切り取る。

可部という古い町、そして寂しい感覚が写真に息を吹き込む。

 

日本人としての感覚に感謝しながらシャッターを切り続けた。

 

 

Fujifilm x-pro1 voightlander Nokton classic F1.4 35mm
Fujifilm x-pro1 voightlander Nokton classic F1.4 35mm
Fujifilm x-pro1 voightlander Nokton classic F1.4 35mm

 

 

 

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kida toshihiro
広島にて写真・音楽などで活動中のアーティスト モノクロスナップやポートレートなどで写真家として活動。 音楽ではジャズやポップスなど幅広いジャンルを演奏するベーシスト。 禅や仏教など日本文化を学んでおり、普段から和服を着ている。 スナップをする時は仕方なく洋服だったが、最近はアーティスト感を出した方がストリートスナップは楽だと気付いた。