広島市の安佐北区に可部という地域がある。
鋳物で栄えた町で、可部駅の近くの公園には200年も前に作られた鉄灯籠がある。
現在は安佐北区に吸収されてしまったが、大病院や区役所などもあり今も重要な土地だそうだ。
あまり縁のない土地だったが、古い街並みが良いという噂を聞き先日足を運んでみた。
冬も始まり少し寒かったが、和服にカメラ、スマホ、財布だけという身軽な格好で出かけた。
荷物は少ない方が好きだ。
身軽に歩き回って一枚でも多く写真を撮りたい。
知らない土地へ向かうワクワクを感じながら、横川からJRに乗り可部駅へと向かった。
仕事もプライベートも徒歩移動が多い僕はJRなど電車に乗る機会も少ない。
車窓から見える景色を楽しみたいと思い、立つ事にはなるが窓際にいる事を選んだ。
すると同じように景色を楽しみたい乗客がいて、同じように窓際にもたれて外を見ていた。
初老の男性で、楽しそうに外を眺めていた。
旅はこうでないとな、と思った。
可部駅に着いてJRを降りる。
平日なのもあって人が少ない。
時間もあるし地図も特に見ずにぶらぶらする。
可部は確かに古い家屋などもあり、趣のある土地だ。
近くに大きな河も山もあるので自然に溢れている。
いつも通り気になったものを写真に収めながらひたすら歩いた。
この日は曇り空で、あまり良い天気ではなかった。
少し暗くてしかも肌寒く人も少ない。
河の側は風も抜けて特に寒い。
しかしこの感覚こそまさに冬だな、と思いながら川縁を歩く。
クリスマスのように幸せな雰囲気も勿論嫌いではないが、この寂しい感じこそ冬だと僕は感じる。
冬は生き物達が眠り、空気が静かになる。
川岸から岩を伝って、河の真ん中辺りに立つ。
そうするとせせらぎや草が風に揺れる音だけが聞こえる。
とても静かでいい。
薄暗い中モノクロで写真を撮っていると、ファインダーの中に見える景色が墨絵のようだと思った。
墨絵を描くように情景を切り取る。
可部という古い町、そして寂しい感覚が写真に息を吹き込む。
日本人としての感覚に感謝しながらシャッターを切り続けた。