旅の思い出

半径5kmを切り取る旅 page2

 

僕は歩くのが好きだ。

 

 

歩く事でゆっくり物を見る事が出来るし、歩きながら考え事をする時間は僕にとって重要な時間だ。

 

何より車を持っていないし(そもそも運転もあまり好きではない)、

空いている時間は良いのだが、混む時間の公共交通機関に乗るのは最悪だ。

 

そんなこんなでちょっとした移動などは徒歩が基本となっている。

 

 

思えば小さい頃から歩くのが好きだった。

 

特に自然を感じながらのんびり歩くのが好きだった。

 

 

原体験は祖父母の家の方での散歩だろう。

 

母方の祖父母は栃木県の那須烏山という所に住んでいて、そこは自然に囲まれたとても良い所で

お盆の時期に遊びに行くと、僕はよく父と一緒に散歩をした。

 

 

兄や妹は散歩が楽しいとはあまり思わなかったみたいで、父と2人の道中なのだが

父は生き物や自然に詳しく、出会う昆虫や鳥など沢山の事を僕に教えてくれた。

 

散歩コースはいつもお決まりで、家を出てすぐに広がる田舎道を行き、

あとは大きな河川沿いに作られた遊歩道をずっと進んでいく。

 

河川が大きいので遊歩道も必然的に長く、おまけに途中で生き物の観察なども始まるから

帰るまで1時間以上かかり、散歩の時間が長いとよく母に呆れられていた。

 

 

僕の歩く体験はここから始まり、お陰で自然や生き物についても少し詳しくなれた。

 

 

お陰で今も長時間歩く事が苦にならないし、

観光地なども歩いてゆっくり回る事が多いからしっかり細かい所を見る事が出来る。

 

 

 

そして僕は歩きながらいろんな事を考えるのが好きだ。

 

 

目の前の風景について、

この先にある事について、

今日あった事、

楽しい事、

嫌なこと、

好きな人について、

自分自身について、

 

 

歩いていると沢山の事が思い浮かぶ。

 

そして僕の場合歩いている時はいつもよりもしっかり物事について考える事が出来る。

 

歩きながら自分の頭を整理しているという感覚に近いのかもしれない。

 

だから考え事がある時などは自然と歩く時間が長くなる。

 

ペースもゆっくりになる。

 

歩きながらいろんな事を考えるのは僕にとって重要なのだ。

 

 

 

そんな僕だが、今は歩く時はいつもカメラが肩に掛かっている。

 

 

いつもというのは割と誇張していない表現で、僕は仕事の種類に関係なくカバンに常にカメラが入っていて、

いい被写体に出会ったり、最初から脳が写真を撮るモードの時は行き帰りの道中で写真を撮っている。

 

勿論、アートやクリエイト系の仕事の時はいつでも撮れるように肩から斜め掛けで臨戦体制にしている。

 

 

だから今では本当にカメラを常に持ち、散歩や徒歩移動の時はほとんどカメラを肩に掛け撮り歩いているのだ。

 

 

 

カメラが常にある事で、目の前の美しいもの、面白いもの、素敵な人を残す事が出来る。

 

今までは美しいな、いいな、と思うだけだったものを写真として形に残す事が出来る。

 

 

 

僕は写真に目覚め、尚且つスナップという表現に目覚めた時、本当に人生はうまく出来ていると思った。

 

 

今まで歩く事で培われた感覚がスナップをする上で大いに役立っているからだ。

 

 

 

スナップとは観光地やフォトジェニックな場所だけでするものではない。

 

 

カルティエ・ブレッソンも自分にとって馴染みのあるパリを美しく切り取ったし、

木村伊兵衛や土門拳なども下町など市井の暮らしを切り取った。

 

 

自分がモノを見る感覚というのが全面に出るのがスナップで、だから何気ない所や見慣れた所で

いかに写真を撮れるかが面白くて難しい所なのだ。

 

 

 

だから沢山歩いて、いろいろ見てしまう僕にとってスナップという表現は打って付けだと思った。

 

 

別に僕が優れた感性を持っているという訳ではない。

 

大事なのは「自分が撮りたいと思うか」だ。

 

撮りたいと思う理由は何でもいい。

 

ただ、目の前のことに何も思わず通り過ぎていくというのはとても恐ろしい事だと思う。

 

 

 

例えば、いつも通っている橋だって、視点を変えれば面白い形だと思うかもしれない。

 

Fujifilm x-pro1 + voigtlander nokton 35mm f1.4

 

 

 

 

ふと出会った物にドラマを感じるかもしれない。

 

Fujifilm x-pro1 + voigtlander nokton 35mm f1.4

 

 

沢山歩いていれば、それだけ沢山の景色に出会える。

 

 

僕はカメラがあるお陰でそれを写真として残す事が出来る。

 

 

そして僕は写真を撮りながら、いや撮る前も撮った後もいろいろな事を考える。

 

 

ここにはどんなドラマがあったのだろう、人々は何を思うのだろう、

 

 

何故僕はこれを美しいと思ったのだろう、どうすればこの美しさを表現出来るのだろう、と…

 

 

こんな経験がすぐに出来るからスナップ旅は楽しい。

 

 

だから僕は歩くのが好きなのだ。

 

 

3+
kida toshihiro
広島にて写真・音楽などで活動中のアーティスト モノクロスナップやポートレートなどで写真家として活動。 音楽ではジャズやポップスなど幅広いジャンルを演奏するベーシスト。 禅や仏教など日本文化を学んでおり、普段から和服を着ている。 スナップをする時は仕方なく洋服だったが、最近はアーティスト感を出した方がストリートスナップは楽だと気付いた。