「出会いの中の瞬間を切り取る」
旅の醍醐味と言えば何だろう。
何が1番かは人によって様々ではあると思うが、旅ならではの醍醐味というのは沢山ある。
そこでしか見られない景色
そこでしか食べられない食べ物
様々な人との出会い
知らない所を歩く不安と高揚感
普段では体験出来ない事を体験出来る醍醐味があるからこそ、旅は面白いのだ。
そしてそれは僕のスナップ旅でも共通する。
今回はその中でも「出会い」に関するお話。
スナップをする際、僕は途中カフェなどで休憩を入れることが多い。
機材好きでもあるので、愛機を眺める時間が欲しいのと、その日撮ってきたものを思い返したり、
ぼーっと考え事をする時間が欲しいからだ。
そしてもうすぐ春という少し暖かくなる頃、広島駅横のエディオン蔦屋家電さんで
休憩するのが僕の一時のリズムになっていた。
この日もいつものようにスナップをして歩き、そろそろ休憩するかと思って広島駅の方に足を向ける。
前半戦だけで結局1時間ぐらい歩いた僕は、流石にちょっと疲れて蔦屋家電に入る。
広島駅横の蔦屋家電は2Fにカフェがあるので、2Fに上がる。
が、せっかくならちょっと店内をぶらっとするかと思い、何となく店内の家電や本のコーナーも回った。
そうすると、今まで知らなかったのだが、少し奥に入るとアートや工芸品などの展示場がある事に気づいた。
何を展示しているのだろうと思い中を覗くと壁には美しい切り絵、中央部にはフェルトなどで作られたジオラマ
そして工芸品と共にあったのは東日本大震災に関する雑誌類が置かれていた。
切り絵やジオラマをよく見ると宮沢賢治の作品を題材としている。
どうやら東北に関する展示をしているようだった。
程なくして、展示スペースにいらっしゃった女性が声をかけてくださり、作品の解説などをしてくれた。
お話をお伺いすると場内の切り絵の作品を作られた、切り絵作家の吉田路子さんご本人だった。
僕は宮沢賢治や東北に関してあまり詳しくなかったので、これはいい機会だと思い、
吉田さんと沢山お話をさせてもらった。
吉田さんは広島に現在住まれており、カープの新井選手の切り絵作品がテレビで使われるなど、
現在多方面で活躍されている。
今回の吉田さんの作品は宮沢賢治作品を切り絵で再現したもので、高知県の和紙を使ったという色紙は
繊細な色合いが美しく優しい吉田さんの作品をより後押ししてくれていた。
切り絵についてもだが、僕にとっては知らない事だらけで新鮮であったし、
熱く語ってくださった吉田さんもとても素敵だった。
そうこう話していると他のお客さんも入ってこられ、結局その方も混ざって東北のお話がさらに膨らむ。
そのお客さんはご年配の方だったが、東北の震災の現在の事をとても心配されていた。
僕は恥ずかしながら正直に言うと東北の震災の事は忘れかけていた。
今もなお爪痕は残り、元どおりの暮らしが出来ていない人はいるのだ。
僕以外のお客さんが帰ってからも、しばらく僕はお話をさせてもらった。
とても楽しい時間だった。
吉田さんも他のお客さんも、今日たまたま出会った人達だったが、
僕の知らないこと、アートのことなど、沢山話すことが出来て嬉しかった。
普段関わらない人と話をすると、自分の知らない世界が広がる。
旅での出会いとはなんとも素敵な事なのだろうと思えた。
自分が知らないだけで、世の中には素敵な方が沢山いる。
そして、当然そんな素敵な出会いがあった場合は写真を撮らせてもらうのが写真家。
普通の状態ならなかなか他人に「撮らせてください」とは言いにくのが本音だ。
だが、旅の中で交流があれば、「この瞬間を残したい」という強い強い気持ちが生まれてくる。
カメラに触れることで僕には瞬間を残す道具があるのだ、と再認識し、勇気が出てくる。
そして、僕は出会いに感謝をしながらシャッターを切るのだ。
旅の中での醍醐味に「出会い」がある。
これはその場にとどまっているだけでは味わうことのない経験だ。
人と出会い、話をする事で自分の世界も広がるし、他人への感謝も生まれる。
僕はこれからも素敵な出会いがあるよう心をオープンにしながら、カメラを持って歩いていくだろう。